柊のはっぱは尖ってる

好きなものの、好きなところを、好きなだけ

#04 今でも読み返す、アレックス・シアラー

今日はこどもの頃から好きだった海外の作家さん。いわゆる児童書の作家さんです。

海外作品を読んでいて思うのは、それは「作家さんが好き」なのか「翻訳されてる方が好き」なのか、どっちなのかわからないなあということです。ベースが作家さんなのはわかっていますが、日本語の文章として心地よく読めるものは、それは翻訳されている方の手腕なんじゃないか、と思ったりも。「星の王子さま」みたいな複数名の翻訳家が同じ物語を翻訳している場合だと、道筋は同じでも全然違う印象になることもあるので……どうなんでしょうね?

 

は、置いといて。

アレックス・シアラーさんは、翻訳家さんが違っても面白いなあと思えた作家さんでした。

 

たぶん一番最初に読んだのは「魔法があるなら」。

家を追い出され行く宛のない母・姉・妹の3人、大胆で少し変わった母が住むことに決めたのは、大きくて立派な有名なデパート、スコットレーズ。閉店ギリギリに忍び込んで、賞味期限切れの冷凍食品を探して、家電売り場のレンジで温めて、なんでもあるおもちゃ売り場のおもちゃで遊んで、寝具売り場のふっかふかのベッドで眠る。もちろんバレちゃいけない。見つからないように、テントに隠れ、トイレに隠れ…けれどドアマンに疑われたり、休館日の清掃をどう切り抜けるか、毎日会う謎の男の正体は、たくさんのピンチに常識人で心配性な姉=主人公の胃は痛くなるばかり……

 

タイトルはファンタジーっぽいところがありますが、別に魔法があるわけではないです。けれど魔法みたいになんでも、宝石もテレビもスイーツもひたすらたくさんある場所で、親子が暮らしていく荒唐無稽さ。めちゃめちゃワクワクします。

これが書かれたのは1999年なので、イギリスの立派で古くて、ちょっとセキュリティは甘めなデパートを想像してください。うん、住めそうですよね、ワンチャン。もちろん今のセキュリティでは難しいと思うので、もしかしたら令和のこどもたちが読んでもリアルに感じられないのかもしれませんが…

最後にはホームアローンもびっくりの大バトルがまっているので、ぜひ読んでみてください。

 

「海のはてまで連れてって」も、そんなこどもたちの大冒険の物語です。

豪華客船で働くお父さん。双子の兄弟は一緒にいきたいのに、仕事のシーズンになるとおじいちゃんたちの家に預けられてしまうのがいやでいやで…そして決めました。この夏は密航者として船に忍び込むことを!

ちょっとおばかな子達の冒険、っていう点では先ほどの作品にも近いんですけど、こちらは男の子なのでよりアグレッシブな冒険になりますね…ハラハラドキドキ感も強いです。

 

どちらの作品もこどもたちでも想像のできる、手が届くところにあるファンタジーだと思うんですよね。もちろんドラゴンや魔法や、ヴァンパイアやエルフやユニコーンや、そういうすてきなもの(ジャンルをあえて分けるならばハイ・ファンタジーあたりに属すると思いますが、こういう分類をしていって平和になったことはないのでやめます)もすごく楽しいです。

当然ハリーポッターとか、ダレン・シャンとか、タラ・ダンカンとかデルトラクエストとか、そのあたりの同世代の流行りはだいたい読んでました。どれも面白く、楽しく読んでいたと思います。けれど海外の作品に触れていて思うのは、そもそもの作者・書かれた言語圏の文化観や歴史観、宗教観で組み立てられている不思議な世界だったりするわけで、その前提を踏まえないとイメージが難しいなあと思うところもあって。

少し話はそれますが、ディズニーランドは好きなんですけど、いまだにイースターって何の祝日・イベントなのかよくわからないんですよね。ハロウィンはお盆、クリスマスは天皇誕生日みたいなもんだって置き換えられるんですけど、イースターに該当する日本の祭事ってない気がします。何回説明を読んでも聞いてもぴんとこない。いつなのかも覚えられない。なのであんまりあの期間に惹かれないんですよね、うさたまはすごく可愛いんですけど。

それと同じで、日本のすみっこで生まれた僕にとっては、海外の日常を描いた作品であってもファンタジーのように感じられたりするわけです。

ドラゴンには触ったことはないけど、デパートで暮らすことも、豪華客船に忍び込むことも、なんとなくイメージできる。大人になって今ではもっと世界史とか地理とか勉強したので、もう少し理解できるようになりましたが。けれど勉強したからこそ、肌感覚ではわからないなあと、より違いを感じることもあります。

こういう”日常の少し先”を描いた作品だと、違う文化圏だとしても同じようなことを思うんだ、同じような悩み・苦労・楽しさがあるんだ、もしくは全然違うんだって思うことができて面白いですよね。先ほどの2作は、少しだけ手を伸ばせば届く世界の物語であることが作品のわりと冒頭で提示されるので読みやすいと思います。

 

そんな、“日常の少し先”にある作品の中でも傑作だと思うのが「チョコレート・アンダーグラウンド」です。

選挙で勝利を収めた「健康健全党」が施行した新しい法律、それは「チョコレート禁止法」。その日から、チョコレートは街から消えた。あまいものはリンゴやバナナだけ。包み紙を所持していても捕まってしまう。そんなの嫌だ!主人公たちはまだ加工されていない「カカオ豆」を発見したことでチョコレートの密造をしていきます。弾圧されるチョコレート、ぼくたちは好きなもののために立ち上がります。

 

これは弾圧されるものが「お菓子」「チョコレート」であるからコメディとしても読めますが、他の事柄に置き換えて読むとかなり笑えない話になってきます。大人の評価も高いです。まじめに選挙の大切さも伝わるので18歳には全員読ませてもいいんじゃないかなと思います。日本でアニメ映画にもなっていますが、そちらはみれていないんですよね。どうだったんだろう…。

健康健全党に従って弾圧をする側になるクラスメイトと、反抗してひっそりチョコを楽しむ主人公たち、その両方が混在している描写もありますが、そのあたりがリアルだなあと思う場面でしたね。弾圧する側も社会のルールとしては正しい。反抗する気持ちもめちゃめちゃわかる。そして弾圧していた子が久しぶりにチョコレートを食べて「もうひとつくれない?」と言ってしまうところなんかは印象深いです。

ときどき読み返してはいろんなことを考える本ですね。

 

たぶん一番有名なのは「青空のむこう」なんですが、

 

これは読むと泣けてしまうので全然読めません。大学の授業でも先生がとりあげてくださって、授業中に泣きそうになったのをよく覚えてます。

 

他の作品も面白いので、ぜひよかったら読んでみてください。

では!

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