柊のはっぱは尖ってる

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#26 繭期が明けなくて困ってる(ネタバレはないよ)

《繭期》、ってワードの意味がわかる方は握手しましょう。

文頭から握手求めるやばいやつになっていますが、これは舞台作品・TRUMPシリーズの用語になります。

2009年から今年2023年まで14本以上(演劇公演、短編含む)のオリジナル作品を上演し続けており、舞台のコミカライズ化、新作のアニメ化も2024年に決まっている、日本の演劇界でも稀有な作品です。

これ、めっちゃ面白いです。

 

 

 

シリーズのどれかの説明をすると他作品のネタバレになっちゃう、みたいな作品もあるんですが、シリーズ10周年記念公式ページではこんなイントロダクションが書かれています。

劇作家・末満健一がライフワークに掲げ、2009年より展開する演劇オリジナルシリーズ作<TRUMP-トランプ-シリーズ>。
吸血種と人間種が共存する社会で、不死を失った吸血種《ヴァンプ》たちが、永遠の命を持つとされる吸血種《トランプ》の不死伝説に翻弄されていく様を描く。

このシリーズにおける吸血種(ヴァンプ・ヴァンパイアとも呼ばれます)は、人間種(いわゆる普通の人間)よりは長命ですが人や他の動物のように死が訪れます。けれど最初に生まれた始まりの吸血種は永遠の命を持っており、他者を同じく不死の仲間にすることが出来ました。そんな原初の吸血種を《TRUE OF VAMP》、その最初と最後の文字を繋げて《TRUMP》と呼んでしました。けれど不死の力を求めた人間種との間に大きな争いが起こり、TRUMPが与えた後天的な不死の仲間の吸血種も消え、TRUMPも行方知れずになり、その後は伝説・御伽噺のように語り継がれていました。

吸血種と人間種の混血・ダンピールも登場しますが、種族間の混血もあり多くのものが短命に生まれ、生を渇望していたり、自分の生まれを呪うキャラクターも多く登場します。

《繭期》は、そんな吸血種たちの思春期のような時期。精神的に人間のそれよりも激しい情緒不安定に陥り、妄想・嫉妬・執着・幻覚など、本人では制御できないほど不安定な上に、人によっては特殊な能力に目覚める人もいます。そういった力も大人になると消えてしまうのですが、人の心が色で見えたり、未来や死期を見れる力が作中で登場しています。

他のヴァンパイアが出てくるような作品と違う設定でいうと《イニシアチブ》というものが面白いです。吸血種同士が噛むと、噛まれた者は噛んだ者に服従するという能力。誰が誰のイニシアチブを取っているのか、とっていないのか、その辺りが人間関係の最重要な要素になってくるので、そのあたりを予想しながら見ると面白いと思います。危険なので法律で禁止されていますが、作中で噛んで噛まれては日常茶飯事なのでこの作品世界では生き残れないなあと思います。

 

と、こんな感じの設定の中で、永遠の命を求める人がいたり、永遠の繭期を求める人がいたり、サスペンス要素が強かったりジュブナイル要素が強い作品など、かなり幅が広いところが魅力の一つかも知れないですね。
本編冒頭などが上がっているので、タイトルのところにリンク貼っておきますね。

 

シリーズ最初の作品がそのものずばりの『TRUMP』になります。

この作品のみにある面白い仕掛けが、TRUTH公演とREVERSE公演の2パターンを交互に上演するということです。これめちゃめちゃややこしいんですが、再々演だったD2版のキャスティングがわかりやすいのでこちらで説明しますね。

TRUTH公演では、主人公のソフィを演じるのは西井幸人さん、その親友であるウルを三津谷亮さん。

物語の核心に関わるクラウスを陳内将さん、アレンを山田裕貴くんが演じています。

対してREVERSE公演では、ソフィを三津谷亮さん、ウルを西井幸人さん。クラウスは山田裕貴くんに変わり、アレンを陳内将さんが演じています。他にもウルの兄であるラファエロと、ラファエロに深い恨みを持つアンジェリコが入れ替わり、2人の先生、グスタフとミケランジェロが入れ替わり…と、こんな風に縁が深い、関係性の深いキャラクター同士を交互に入れ替わって演じます。

公演によってリバースするキャラクターは少し変わったりするんですが(再々再演の際はどちらも脚本・演出の末満健一さんが演じているキャラクターがいたりします)、ソフィとウル、クラウスとアレン…といった必ずのコンビが何組かいます。

シリーズ最初であり、他作品にも大きく関わる作品になるんですが、これがね、めちゃめちゃ面白いです。ミステリ的な要素もありつつ、TRUTHとREVERSE両方を見ることで成立するところもありつつ…

今月企画の中でもぶっちぎりで、何を話してもネタバレになりそうでね、悩むんですよ。笑

2015年の再々再演ではソフィ/ウル役で高杉真宙くんが出演されてました!あの真宙くんの繭期!絶対に絶対に見たいと思っていたので本当に嬉しかったなぁ!D2版よりもその後のシリーズの要素を踏まえ、ソリッドになったTRUMPでしたが、絶望は変わらずで最高でした。

制作された順では、次が『LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-』でした。

初演はモーニング娘。'14と、当時のスマイレージ・現在のアンジュルムのメンバーにて。2023年にはオーディションで集まった方々による『LILIUM -リリウム 新約少女純潔歌劇-』も上演されてます。

こちらはハロプロさんの演劇女子部というミュージカル企画の中でいきなりぶっこまれたTRUMPと同一世界観・設定であり、かつとあるキャラクターのTRUMPのその後も描かれている作品になります。

時系列はかなり飛ぶんですが、単純にTRUMPの女性版ていうわけではなく、女だからこその執着・嫉妬、男の子のキャラクターとの恋(演じるのはもちろん女性)もあり、作品の絶望度はTRUMPよりも上かもしれないです。

初演の鞘師里保さん演じる主人公リリーは素晴らしかったですね。劇中曲も人気が高いです。ちなみにマブの友達に布教されて自分はこの沼に来たんですが、よくカラオケでアカペラで二人で歌い演じる遊びをします。超楽しい。

 

TRUMPの主人公であるソフィが生まれるまでの話を『SPECTER』にて、親友のウルが生まれるまでの話を『グランギニョル』にて描かれています。作品が対みたいなところもあるんですが、片方で片方のことを話していたりするので上演順に見てもらうと楽しいかな!と思います!SPECTERも初演は2015年、再演が2019年にあり、演出やセリフが変わっていたりするのでね、初演から見てほしい…単にそのまま再演したわけではないので…

今度アニメになる『デリコズ・ナーサリー』はグランギニョルの1年後の話になります。めちゃめちゃ楽しみにしていた作品になるんですが、ちびっこがたくさん必要なので舞台は難しそうだな…と思っていたらアニメになりました!オリジナルアニメになるって改めてすごいですよね。

 

LILIUMに登場するとあるキャラクターの前日譚が2018年に上演された『マリーゴールド』になります。LILIUMにはそのものズバリ、マリーゴールドという女の子が出てくるのですが…

こちらミュージカルになっており、高難易度の曲をひたすら浴びるとんでもない作品になってます。D2版でウル/ソフィを演じた三津谷亮くんが、またソフィという名の少年を演じているのも嬉しかったです。

 

2020年には音楽朗読劇という形で、『黑世界 ~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~ 雨下の章/日和の章』というダントツでタイトルの長いLILIUMの後日譚も描かれました。

こちら面白いのが、作演出の末満さんだけではなく、他の作家さんも含めた短編アンソロジーになっており、泣ける作品も笑える作品もコールアンドレスポンスしまくれる(コロナ禍なので客は無言)作品もあり、TRUMPシリーズの作品としての自由度の高さをより感じる作品になっています。モーニング娘。を卒業し、留学していた鞘師里保さんがリリーに返り咲き、日本で久々に芸能活動を再開した作品なので、告知の際には驚きました。

朴璐美さん、松岡充さん、中尾ミエさんといった錚々たるメンツもすごかったなぁ。

 

2019年には、TRUMPの数年前、ラファエロとアンジェリコの確執を描いた『COCOON 月の翳り』とウル目線のTRUMPを描いた『COCOON 星ひとつ』も、別作品ですが同時に上演されました。

月の翳りね、めちゃめちゃよかったです。こじれた青春とその終わり、繭期だからこその確執、TRUMPシリーズだからこそのキリキリ感。大好きでした。

 

2022年に、これまでの時間軸とは少し前の、関連性は少し低いですが、またTRUMPシリーズの可能性が広がったのを感じたミュージカル『ヴェラキッカ』が上演されました。当主、ノラ・ヴェラキッカを愛することが家訓とされた一族、ヴェラキッカ家の人間愛憎劇。

美弥るりかさんや平野綾さん、松下優也なども参加されており、なんでブリリアホールなんだよ!と思う歌唱力の素晴らしいメンツによる、高難易度の曲たち。楽しかったなぁ。
曲のみがプレイリストで上がっているんですよ!いい曲がたくさん!

TRUMPシリーズの面白いところは、もちろん既存キャラクターの過去やその後を追っていくところもそうですが、吸血種、人間種、ダンピール、TRUMP、イニシアチブ…そういった設定をどういう舞台に設定するかでかなり印象の違う話になるんですよね。主人公が誰か、ということでも。

いろんな話が今後もできると思いますし、作中3人いる不死を得てしまったキャラクターたちのその後、終着は見届けたいと思っています。

さまざまな役者がいろんな時間軸の同じキャラクターを演じる作品、ってのも面白いです。似ているところや全然違うところを比較するのも楽しいです。

出てほしい人たくさんいる!

繭期を演じてほしい役者さんがたくさんいます!ていうからんぺちゃんがちょうどTRUMPのキャストと同じ16人なのでほんとにやってほしい!ボロボロになってほしい…

海青くんの「我は守護者なり(作中いろんな人が言うセリフ)」とかね!聞きたいよね!聞きたいでしょ!?

真宙くんはもう出てしまいましたが、またウルやソフィを…もちろん違う役でも全然良いのでまた見せてもらえたら良いなぁと思います。美しい絶望は何度あっても良いですからね。

 

TRUMPシリーズのいいところは、定期的に新作の告知や上演の前に「はじめての繭期」といってシリーズをYouTubeで無料公開するんですよ。

今年は春と夏の2回開催だったんですが、きっとデリコズ・ナーサリーの放送前にまたあると思いますので、その際にはぜひ!一緒に繭期に落ちてみませんか?

 

とまぁこんな感じ!

29日に26番目が書き上がっていることに恐怖を覚えておりますが!どうにかまにあうのか!

では!!

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